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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7959号 判決 1963年2月27日

判   決

反訴原告

島野商事株式会社

右代表者代表取締役

島野隆夫

右訴訟代理人弁護士

吉川大二郎

伊藤秀一

足立昌彦

原井龍一郎

右訴訟復代理人弁護士

山下義則

反訴被告

日本ドライブイツト株式会社

右代表者代表取締役

木村源四郎

右訴訟代理人弁護士

長尾憲治

右当事者間の昭和三五年(ワ)第七、九五九号製造禁止等反訴請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

反訴原告の各請求は、いずれも、棄却する。

訴訟費用は、反訴原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一反訴原告訴訟代理人は、「一、反訴被告は、別紙第一目録記載のドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機又は別紙第二目録記載のドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示し、輸入してはならない。二、反訴被告は、その所有する右ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機又はドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機を廃棄せよ。三、反訴被告は、反訴原告に対し、金百七十万円及びこれに対する昭和三十五年九月二十八日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。四、訴訟費用は、反訴被告の負担とする。」との判決及び金員請求部分について仮執行の宣言を求めた。

二反訴被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

(請求の原因等)

反訴原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。

一反訴原告の有する実用新案権

反訴原告は、次の実用新案権を有している。

登録番号 第五〇九、八八六号

考案の名称 コンクリート鋲打機に於ける銃身内筒取替装置

出   願 昭和三十一年九月五日

出願公告 昭和三十四年四月十八日

登   録 昭和三十五年十二月二八日

二登録請求の範囲

本件実用新案権の登録願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載は、別紙第三目録該当欄記載のとおりである。

三本件実用新案権の考案の要旨及びその効果

(一)  本件実用新案権の考案の要旨は、次の各要件からなつている。なお、次の(1)ような銃身の構造が本件実用新案権の登録出願の前から公知であつた旨の反訴被告の主張事実は認めるが、次の(2)のような銃身の構造が本件実用新案権の登録出願の前から公知であつた旨の反訴被告の主張事実は、争う。一般に、機械は、部分品の交換が可能であるが、本件登録実用新案は、同一の銃身前部2に適合し、かつ、口径を異にする数種の銃身内筒3を備え、これを簡易に取り替えうる点に新規性が存するのである。

(1) 銃身は、銃身主体1と銃身前部2とに分割しうること。

(2) 嵌合外径は同一で口径を異にする数種の銃身内筒を備え、そのうち、適宜所要のものを銃身前部2の後端開口から嵌挿して取り替えうること。

(3) 銃身内筒3の前部に螺合した前端筒23の後端を、弾機24により圧出されている嵌合筒22の前端に接当させたこと。

(二)  本件登録実用新案の効果は、次の(1)及び(2)のとおりである。なお、次の(1)の効果が、本件実用新案権の登録出願の前から公知であつた旨の反訴被告の主張事実は、争う。

(1) 従来、太さの異なる数種の鋲を打ち込む作業をするには、口径の異なる数丁の鋲打機を使用するか、又は、口径の異なる数本の銃身前部を用意しておき、所要の口径の銃身前部を銃身主体に取り付ける方式の鋲打機を使用するほかなく、鋲打機一式は、その携行取扱に不便であり、かつ、高価につくという欠点があつたが、本件登録実用新案は、前記(一)の(1)(2)の構造を有するから、一本の銃身前部2に対し、外径が同一で口径の異なる数種の銃身内筒3を適宜挿し替えることができ、鋲打機一式は、その重量及び容積が著しく小となり、携帯取扱いが便であるとともに、安価であること。

(2) 本件登録実用新案は、前記(一)の(3)の構造を有するから、

(い) 銃身内筒3は、常に押し出された位置を保持し、発射の際には、銃口を目的壁面に圧着することによつてのみ後退して発射を可能ならしめるため、鋲打機の使用が安全であり、

(ろ) 銃身内筒3の先端は、確定して左右に揺動することがなく、

(は) 銃身内筒3の前部は、露出していないので、体裁も良好であること。

四反訴被告の実施するドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機及びドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機

反訟被告は、別紙第一目録記載のドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機及び別紙第二目録記載のドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は、譲渡若しくは貸渡のため展示している。

五本件各鋲打機の構成上の特徴及びその効果

(一)  本件各鋲打機の構成上の特徴は、次の(1)から(4)にある。なお、反訴被告は、適宜所要の銃身内筒部3を撃発銃身部2に固定し、これに可動の銃身前部を冠挿して取り替えうる構造を有する旨主張するが、右主張は、次の(2)の構造を逆に表現したにすぎず、右主張の構造と次の(2)の構造とは、実質的には同じものである。

(1) 銃身は、撃発銃身部2と銃身前部(銃身内筒部3、銃身外筒部4及び安全装置部5よりなる。)とに分割しうること。

(2) 嵌合外径が同一で口径を異にする数種の銃身内筒部3を備え、そのうち適宜所要のものを銃身前部の後端開口から嵌挿して取り替えうるようにしたこと。

(3) 銃身内筒部3の前部(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機)、又は、銃身内筒部3の前部に螺合された補足銃身9の前部(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機)に螺合したデイスクアダプター11の後端を、ガードスプリング10により圧出されている安全装置部5のパイプの前端に、安全装置部の保護板を介して、接当させたこと。

(4) ガードスプリング10の後端を、銃身内筒部3の前部外周に螺合された銃身チユーブ9の後部(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機)、又、銃身内筒部3の前部に螺合された補足銃身9の後部(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機)で抑止させ、銃身チユーブ9(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機)又は補足銃身9(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機)の後端を、主スプリング8の前端に接当させ、その後端を銃身外筒部の後部で抑止させたこと。

(二)  本件各鋲打機は、本件登録実用新案の有する効果のうち、前記三の(二)の(1)及び(2)の(ろ)、(は)と同一の効果を有する。

六本件登録実用新案と本件各鋲打機との比較

本件各鋲打機は、いずれも、次の(一)に示すとおり、本件登録実用新案の要旨を構成する各要件を充足しており、かつ、効果においても、次の(二)に示すとおり、本件登録実用新案が目的としていない一部公知部分の構造が有する効果を除いて、同一であるから、本件登録実用新案の技術的範囲に属する。

(一)  構成の比較

(1) 本件各鋲打機はいずれも、前記五の(一)の(1)の構造を有し、その撃発銃身部2並びに銃身内筒部3、銃身外筒部4及び安全装置部5よりなる銃身前部は、それぞれ、本件登録実用新案における銃身主体1及び銃身前部2に該当するから、前記三の(一)の(1)の要件を充足する。

(2) 本件各鋲打機はいずれも前記五の(一)の(2)の構造を有するから、前記三の(一)の(2)の要件を充足する。

(3) 本件各鋲打機は、いずれも、前記五の(一)の(3)の構造を有しそのデイスクアダブター11、安全装置部5のパイプ及びガードスプリング10は、それぞれ、本件登録実用新案における前端筒23、嵌合筒22及び弾機24に該当するから、前記三の(一)の(3)の要件を充足する。

仮に、本件各鋲打機におけるデイスクアタプター11及び安全装置部5のパイプが、それぞれ、本件登録実用新案における前筒23及び嵌合筒22に該当しないとしても、本件各鋲打機においては、主スプリング8の圧出力が銃身内筒部3に直接作用しているのであるから、本件登録実用新案との構造上の差異は、結局、主スプリング8又は弾機24の圧出力が、銃身内筒部3に直接作用しているか、又は、嵌合筒22及び前端筒23を介して銃身内筒3に間接に作用しているかの点に存することとなる。本件各鋲打機において、主スプリング8の圧出力が銃身内筒部3に直接作用することにより、前記三の(二)の(2)の(い)と同一の効果を挙げうることは、構造上明らかである。しかも、スプリングの圧出力を銃身内筒部に作用させることにより右効果を挙げうる考案は、本件実用新案権の登録出願の前からすでに公知のものであり、スプリングの圧出力の伝達が直接であるか間接であるかは、右効果に関して考案の異動を生ぜしめる意味を持ちえない。本件登録実用新案における前記三の(二)の(2)の(ろ)、(は)の効果は、嵌合筒22及び前端筒23のみによつて挙げられるものでもなく、しかも、本件登録実用新案における付随的な効果にすぎないから、結局、嵌合筒22及び前端筒23は、弾機24の圧出力の媒体たること以外に重要な意義を有しないものというべきである。したがつて、本件登録実用新案におけるこの部分の構造は、考案の主要部分を構成せず、本件各鋲打機と本件登録実用新案とのこの点における差異は、構造上の微差にすぎないものといわなければならない。

なお、本件各鋲打機においては、デイスクアダプター11の後端を安全装置部5の保護板を介して、安全装置部5のパイプの前端に接当させた構造を有しているが、本件登録実用新案においては、右保護板に該当するものがなく、前端筒23の後端を嵌合筒22の前端に直接接当させた構造を有している点において、構造上相違するが、右保護板の有無にかかわらず、デイスクアダプター11又は前端筒23によつて、安全装置部分5のパイプ又は嵌合筒が抑止されているという作用には変りがないのであるから、右保護板の有無は、構造上の微差にすぎない。

(二)  効果の比較

本件各鋲打機は、いずれも、前記五の(一)の構成上の特徴を有することに基づき、前記三の(二)の(2)の(い)の効果を除いて、本件登録実用新案と同一の効果を有しているが、前記三の(二)の(2)の(い)の効果を有しない。しかし、右効果を挙げるような構造は、本件実用新案権の登録出願の前から公知であり、また、本件登録実用新案は、前記三の(二)の(1)の効果を挙げることを目的とするものであり、右効果を挙げうる構造にのみ新規性があるのであるから、本件各鋲打機が、右構成上の特徴に基づいては前記三の(二)の(い)の効果を有しないとしても、本件登録実用新案の技術的範囲に属するかどうかの判断には影響がない。

七差止請求

反訴被告は、本件登録実用新案の技術的範囲に属する本件各鋲打機を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は、譲渡若しくは貸渡のため展示することによつて、本件実用新案権を侵害する者であり、また、これを輸入して本件実用新案権を侵害するおそれのある者であるから、反訴原告は、反訴被告に対して、請求の趣旨第一項のとおり、本件実用新案権の侵害の停止又は予防を求めるとともに、反訴被告は、本件各鋲打機を所有占有しているので、請求の趣旨第二項のとおり、その廃棄を求める。

八損害賠償請求

(一)  不法行為の成立

(1) 反訴被告は、本件登録実用新案の出願公告があつた後である昭和三十四年四月十九日以降昭和三十五年九月二十七日までの間十七カ月以上にわたり、一カ月平均少なくとも百台の割合でドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機又はドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機を製造譲渡して、本件実用新案権を侵害した。

(2) 反訴被告は、本件各鋲打機の製造を開始する前から、本件鋲打機の製造、譲渡が本件実用新案権の侵害になることを知りながら、右(1)のとおり、本件各鋲打機を製造、譲渡したものであるから、本件実用新案権の侵害について故意があつたものというべきであり、仮に、本件実用新案権の侵害について反訴被告に故意がなかつたとしても本件実用新案権の侵害について過失があつたものというべきであるから、反訴被告の本件実用新案権侵害行為により反訴原告がこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

(二)  損害額

反訴原告は、反訴被告の本件実用新案権侵害行為により、少なくとも、本件登録実用新案の実施に対し受けるべき実施料相当額金百七十万円の損害をこうむつたものである。すなわち、反訴原告は、本件登録実用新案の実施に対して、少なくとも、卸売価格の五パーセントの実施料を得るのが相当であり、本件各鋲打機の卸売価格は、一台当り最低金二万円であるから、反訴被告が反訴原告の許諾を得て本件各鋲打機を製造譲渡したとするならば、反訴原告は、一台当り、少なくとも、卸売価格の最低である金二万円の五パーセント相当の実施料の支払いを得られたはずであるにかかわらず、反訴被告が反訴原告の許諾を得ないで本件各鋲打機を製造、譲渡したため、少なくとも、合計金百七十万円相当の実施料の支払いを得られず、同額の損害をこうむつたものというべきである。

よつて、反訴原告は、反訴被告に対して、本件実用新案権の侵害に基づく損害の賠償として、金百七十万円及びこれに対する侵害行為の後である昭和三十五年九月二十八日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

九反訴被告の先使用による通常実施権の抗弁に対する答弁

反訴被告が本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有する旨の抗弁事実は、否認する。反訴被告が当初ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機として製造、譲渡したものは、本件各鋲打機とは考案の同一性がなく、当初のドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機は、二分鋲専用銃として製造、販売され、同型用取替銃身内筒部は、製造、販売されていなかつたものである。

(答弁等)

反訴被告訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一請求の原因一の事実は、認める。

二同二の事実は、認める。

三  同三の事実のうえ、従前の鋲打作業方法に関する事実は、否認するが、その余は、認める。もつとも、(一)の(1)のような銃身の構造は、本件実用新案権の登録出願の前から公知であつたものである。また、(一)の(2)のような銃身の構造も、本件実用新案権の登録出願の前から公知であつたものであるが、仮に、公知でなかつたとしても、少なくとも、公知の技術思想から当業者が容易に考案しえたものであり、したがつて、このような構造に基づく(二)の(1)の効果も、本件実用新案権の登録出願の前から公知であつたものである。

四同四の事実は、認める。

五同五の(一)の事実のうち、銃身が前部と後部とに分割しうる構造を有する事実及び(3)、(4)の事実並びに同五の(二)の事実は、認めるが、同五の(一)の(2)の事実は、否認する。本件各鋲打機は、いずれも、撃発銃身部2との嵌合外径が同一で口径を異にする数種の銃身内筒部3を備え、その適宜所要のものを撃発銃身部に固定し、これに可動の銃身前部を冠挿して取り替えうる構造を有するものである。

六同六の事実は、否認する。本件登録実用新案と本件各鋲打機とを比較すると、次の(一)、(二)に示すとおりである。

(一)  構成の比較

(1) 本件各鋲打機における撃発銃身部2は、本件登録実用新案における銃身主体1に該当するが、本件各鋲打機における銃身内筒部3、銃身外筒部4及び安全装置部5よりなる銃身前部は本件登録実用新案における銃身前部2に該当しないから、本件各鋲打機は、いずれも、請求の原因三の(一)の(1)の要件を充足しない。

(2) 前記五に示すとおり、本件各鋲打機は、いずれも、請求の原因三の(一)の(2)の要件を充足しない。

(3) 本件各鋲打機におけるデイスクアダプター11は、主スプリング8とは関係がなく、単に、ガードスプリング10により圧出されている安全装置部5を締止しているにすぎないものであり、銃身内筒部3を常に押し出された位置に保持するという作用を有しておらず、また、安全装置部5のパイプは、デイスクアツセンブリーロツクを解く作用、エクステンションロツクに掛る作用、並びに、銃身内筒部3の前部(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機)又は補足銃身9(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機)の外周の穴からの排気圧、排気音を防ぐ作用をするものであり、銃身内筒部3に摺動自在に嵌合されてもいないので、それぞれ、本件登録実用新案における前端筒23又は嵌合筒22に該当するものとは、いえない。したがつて、本件各鋲打機は、いずれも、請求の原因三の(一)の(3)の要件を充足しない。

なお、本件各鋲打機においては、デイスクアダブター11の後端を、安全装置部5の保護板を介して、安全装置部5のパイプの前端に接当させた構造を有しているに対し、本件登録実用新案においては、右保護板に該当するものがない、これは、構造上の微差とはいえない。

付言するに、本件各鋲打機における銃身内筒部3は、主スプリング8により、銃身チユーブ9(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機)又は補足銃身9(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機)を介して、前方に押し出されているものである。

(二)  効果の比較

本件各鋲打機は、いずれも、請求の原因五の(一)の構成上の特徴を有することに基づき、同三の(二)の(2)の(い)の効果を除いて、本件登録実用新案と同一の効果を有しているが、同三の(二)の(2)の(い)の効果を有しない。右効果を挙げうるような構造は、本件実用新案件の登録出願の前から公知ではあつたが、本件各鋲打機が、右構成上の特徴に基づいて右効果を挙げえないかぎり、本件各鋲打機はいずれも、本件登録実用新案の技術的範囲に属しないものというべきである。

七同七の事実のうち、反訴被告が本件各鋲打機を輸入するおそれがある事実は否認し、反訴被告が本件各鋲打機を所有占有している事実は、認める。

八同八の事実のうち、反訴被告が本件各鋲打機を製造、譲渡した期間及び台数、並びに、本件各鋲打機の一台当りの卸売価格が反訴原告主張のとおりである事実は、認めるが、その余は、否認する。

九仮に、本件各鋲打機が本件登録実用新案の技術的範囲に属するとしても、反訴被告は、本件実用新案権につき、本件各鋲打機の製造、使用、譲渡、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡のための展示の範囲において、先使用による通常実施権を有するから、反訴原告の本訴各請求は、いずれも理由がない。すなわち、反訴被告は、本件登録実用新案の内容を知らないで、昭和三十年七月、アメリカ合洲国オレゴン洲所在のパウダーパワー・ツール・コーポレーションから建設用鋲打機の実物一セツト及びその設計図面一式の送付を受け、これによりドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機の製作図面を作成し、かつ、その製造のための機械設備をし、昭和三十年十一月、その試作品を完成し、ついで、昭和三十一年二月頃から、多量生産のための製造用機械工具を設備し、昭和三十一年五月から、ドライブイツト三三〇型コンクリコト鋲打機の多量生産を開始し、その使用、販売及び拡布をして今日に至つているのであり、右多量生産の開始の時期は、本件実用新案権の登録出願の前である。また、反訴被告は、昭和三十三年六月以降、ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機の製造、使用、販売及び拡布をもしているのであるが、その構造は、ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機と殆んど同一であり、その構造上の差異も、単なる設計変更にすぎない。したがつて、反訴被告は、本件実用新案権につき、本件各鋲打機の製造、使用、譲渡、貸し渡し、又は、譲渡、若しくは貸渡のための展示の範囲において、先使用に基づく通常実施権を有するものである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

(争いのない事実)

一反訴原告が、その主張する実用新案権を有すること、右実用新案権の登録願書に添付した明細書に記載された登録請求の範囲の記載が、別紙第三目録該当欄記載のとおりであること、及び、反訴被告が、別紙第一目録記載のドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機及び別紙第二目録記載のドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のため展示していることは、当事者間に争いがない。

(本件各鋲打機が本件登録実用新案の技術的範囲に属するかどうか)

二当事者間に争いのない前掲登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない乙第一号証(甲第二十号証も同じで、本件実用新案権の実用新案公報)の「実用新案の説明」欄の記載を参酌して考察すると、本件登録実用新案は、「コンクリート鋲打機に於ける銃身内筒取替装置の構造」に関するもので、「銃身内筒3の前部に螺合した前端筒23の後端を弾機24により圧出されている嵌合筒22の前端に接当させたこと。」を、その構成上の必須の要件の一つとしているものとみることができる。

しかして、本件各鋲打機が、いずれも、外径が同一で口径を異にする数種の銃身内筒部3を備え、その適宜所要のものを取り替えうるコンクリート鋲打機であることは、当事者間に争いがなく、したがつて、本件登録実用新案と本件各鋲打機とは、ともに、銃身内筒部分の取替を可能にしたコンクリート鋲打機に関するものということができ、また、本件各鋲打機の構造中ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機においては、「銃身内筒部3の前部に螺合したテイスクアダプター11の後端を、ガードスプリング10により圧出されている安全装置部5のパイプの前端に、安全装置部5の保護板を介して接当させ、ガードスプリング10の後端を、銃身内筒部3の前部外周に螺合された銃身チユーブ9の後部で抑止させ、銃身チユーブ9の後端を、主スプリング8の前端に接当させ、その後端を銃身外筒部4の後部で抑止させた構造」が、さらに、ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機においては、「銃身内筒部3の前部に螺合された補足銃身9の前部に螺合してテイスクアダプター11の後端をガードスプリング10により圧出されている安全装置部5のパイプの前端に、安全装置部5の保護板を介して接当させ、ガードスプリング10の後端を補足銃身9の後部で抑止させ、補足銃身9の後端を、主スプリング8の前端に接当させ、その後端を銃身外筒部4の後部で抑止させた構造」が、それぞれ、本件登録実用新案の前示の要件と均等であるかどうかは別として、これに対応するものであることは、当事者間に争いのない前掲登録請求の範囲の記載と本件各鋲打機とを対比することにより、おのずから明らかである。

よつて、本件登録実用新案における前示の要件とこれに対応するところの本件各鋲打機における前掲の各構造とを、成立に争いのないのない乙第一号証に、弁論の全趣旨によりその成立を認めうべき甲第二十二号証、成立に争いのない甲第四十七号証の二、四及び第四十八号証、並びに、鑑定人大谷幸太郎の鑑定の結果を参酌して比較検討すると、両者は、構成上の主要な部分において、明確に相違するものといわざるを得ない。さらに、これを詳説するに、前者(本件登録実用新案における前示の要件)は、弾機24により銃身内筒3を圧出するに当つて、銃身内筒3を直接圧出することなく、弾機24により、銃身内筒3とは別体であり、かつ、摺動自在の嵌合筒を圧出させ、銃身内筒3の前端に螺合して銃身内筒3とは一体となつた前端筒23の後端をこの嵌合筒22の前端に接当させて、弾機24の弾撥力を銃身内筒3に伝えることにより、銃身内筒3を常に押し出された位置に保持するようにした構造であるに対し、後者Ⅰ(ドライブイツト三三〇型コンクリート鋲打機における前掲の構造)は、主スプリング8により銃身内筒部3を圧出するに当つて、銃身内筒部3の前部外周に螺合され、したがつて、銃身内筒部3とは一体となつた銃身チユーブ9の後端を、主スプリング8により直接圧出することにより、銃身内筒部3を常に押し出された位置に保持するようにした構造であり、後者Ⅱ(ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機における前掲の構造)は、主スプリング8により銃身内筒部3を圧出するに当つて、銃身内筒部3の前部に螺合され、したがつて、銃身内筒部3とは一体となつた補足銃身9の後端を、主スプリング8により直接圧出することにより、銃身内筒部3を常に押し出された位置に保持するようにした構造であり、後者Ⅰ・Ⅱにおいては、いずれも、前者における摺動自在の嵌合筒22に相当するものが存在しない。なお、後者Ⅰ・Ⅱにおけるデイスクアダプター11は、それぞれガードスプリング10により圧出されている安全装置部5のパイプの前端を締止する作用を有するものであり、主スプリング8による圧出とは関係がないから、前者における前端筒23とは、その作用において全く相違し、これとは均等のものともみられないし、また、後者Ⅰ・Ⅱにおけるガードスプリング10は、それぞれ、安全装置部5を圧出しているだけのものであり、前者との比較においては、関係のないものである。前者と後者Ⅰ・Ⅱとは、スプリングによつて銃身内筒部を常に押し出された位置に保持するようにした点において、構造上共通するものがあるが、このような構造は、元来、本件実用新案権の登録出願の前からすでに公知に属するところであるから、前者は、単にこのような構造だけのものとみるべきではなく、弾機24により銃身内筒3を常に押し出された位置に保持するための具体的構造を意味するものとみるのが相当であり、前者の具体的構造と後者Ⅰ・Ⅱとの比較が、問題とされなければならない。これと見解を異にする反訴原告の主張は、到底賛同することができない。しからば、後者Ⅰ・Ⅱは、いずれも、前者における嵌合筒22の存在を欠いているのであるから、この両者の間には、この点において構成上の主要な部分について明細な相違が見出される。

この点に関し、乙第二号証(鑑定書)に記載された弁理士江原秀の意見並びに同じく乙第五号証(鑑定書)に記載された弁理士福田信行及び同福田武通の各意見は、いずれも、ドライブイツト四四〇型コンクリート鋲打機に関し、補足銃身9の前部に螺合したデイスクアダプター11の後端を、ガードスプリング10により圧出されている安全装置部5のパイプの前端に接当させた構造が、本件登録実用新案における「銃身内筒3の前部に螺合した前端筒23の後端を弾機24により圧出されている嵌合筒22の前端に接当させた構造」に該当するものとする点において、到底賛同することができない。成立に争いのない乙第三、第四号証(ともに、無効審判請求書で、乙第四号証は、甲第五十号証と同じものである。)中、請求の理由欄の記載は、反訴被告又は東京特殊興業株式会社が、それぞれ、弁理士衣川毅夫又は同小島守を代理人として、本件実用新案権の無効審判を請求した際の主張で弁理士江原秀等の意見と同じ内容のものであり、いずれも、当裁判所の到底賛同しえないところである。その他本件におけるその余の証拠によつてみても、前記判断をくつがえすべき適確な資料は、一つとして存しない。

叙上のとおり、本件各鋲打機は、本件登録実用新案における必須の要件の一つを欠くのであるから、さらに他の点を比較するまでもなく、本件登録実用新案の技術的範囲には属しないものといわざるをえない。

(むすび)

四以上説示のとおりであるから、本件各鋲打機が本件登録実用新案の技術的範囲に属することを前提とする反訴原告の各請求は、進んで他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。

よつて、反訴原告の各請求は、いずれも、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 米 原 克 彦

裁判官 竹 田 国 雄

図面説明

1 ハンドル部

2 撃発銃身部

3 銃身内筒部

4 銃身外筒部

5 安全装置部

6 ヒンヂピン

7 ストリツピングプランジヤー

8 主スプリング

9 銃身チユーブ

10 ガードスプリング

11 デイスクアダプター

12 エツクステンションロツク

13 デイスアツセンプリーロツク

図面説明

1 ハンドル部

2 撃発銃身部

3 銃身内筒部

4 銃身外筒部

5 安全装置部

6 ヒンヂピン

7 ストリツピングプランジヤー

8 主スプリング

9 補足銃身

10 ガードスプリング

11 デイスクアダプター

12 エツクステンションロツク

13 デイスアツセンプリーロツク

特許庁 実用新案公報

実用新案出願公告昭三四―五五九七

公告昭三四、四、一八

出願昭三一、九、五

実願昭三一―四五〇七六

第三目録

コンクリート鋲打機に於ける銃身

内筒取替装置

図面の略解

第一図は本考案を施したコンクリート鋲打機の縦断側面図、第二図は第一図A―A線の拡大断面図、第三図は第二図B―B線の横断面図であつて第四図は第二図C―C線の横断面図である。

実用新案の説明(省略)

登録請求の範囲

図面に示す様に銃身主体1と銃身前部2とに分割し嵌合外径は同一で口径を異にする数種の銃身内筒3の内、適宜所要のものを銃身前部2の後端開口から嵌挿し銃身内筒3の前部に螺合した前端筒23の後端を弾機24により圧出されている嵌合筒22の前端に接当させてなるコンクリート鋲打機に於ける銃身内筒取替装置の構造。

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